TOP > デザイン知 > デザイナーの専門性の変化

デザイナーの専門性の変化

雑貨デザイナーのみならず、デザインにかかわる職業に求められる能力は大きく変化しています。それはデザインやファッション、アートといった分野に共通して起きていることだといえるでしょう。

何が変化しているのか?それは「専門性の質」の変化です。

従来のデザイナーは専門性の根拠を「感性」や「専門分野についての知識・情報」とともに「技術」においてきました。それを学ぶための専門学校や短大・大学といった教育機関を卒業することも大切な「デザインの専門家」になるための通過儀礼でした。

しかし、ここに決定的な変化をもたらしたのがIT革命でした。

ITの発展によって、アート・デザイン系のソフトウェアが大量にリリースされました。このソフトウェアの出現によって、デザイナーが何年もかかって習得してきたデッサンや設計図の作製も、簡単にできるようになってしまったのです。当初は、これらのソフトウェアは高価で、さらに、操作も複雑で、やはり一部の専門家のものでしかありませんんでした。

しかし、だんだんとソフトウェアは廉価になっていき、操作もアマチュアの人にも容易にできるようになってきました。今日では3Dも子供が簡単に作成できるようになっています。

このように、デザイナーが専門性の根拠にしてきた「技術」はあいまいなものになってしまいました。

さらに、専門分野の知識・情報についても、インターネットの浸透によって「デザイン好きなアマチュア」の人との格差がなくなってしまいました。もしかしたら、コアな世界観では、アマチュアの人の方が有利な場合さえあるのです。

結果、デザイナーが専門家だと主張できる根拠は唯一「感性」になってしまいました。

しかし、この「感性」は実に問題です。感性は必ずしも教育によって得られるものではないからです。確かに教育によって、感性は鍛錬できる面もありますが、教育を経ることなく備わっている感性もあるのです。生活や人生経験など、その人が体験してきたことから体得した感性があります。

このように考えると、もはやデザイナーの専門性が風前のともしびになっているといえるかもしれません。(ただし、ここで前提としているアマチュアは、玄人はだしのアマチュアであり、一般人とデザイナーの格差は厳然として存在します。ですから、デザイナーの専門性は社会的には確立していますし、専門職として尊重されています。しかし、デザイナーとデザイン好きなアマチュアとの格差は小さくなっているということです。)

その代表的な事例として株式会社ポイントのデザインプロセスに見ることができます。

(株)ポイントはLowrys FarmやLepsim、Global Work、HAREといったファッションブランドを展開する服飾企業(1953年10月設立)です。2009年2月末現在で、売上高867億円に達しています。

(株)ポイントのデザインプロセスでは、ファッションの専門教育を受けたデザイナーはいません。いわば、アマチュアな人がブランドを作っているのです。まさに、マーケッターがブランドを作ると表現していいでしょう。スタッフはストリートに出たり、ファッション誌の流れから、売りだす製品の着想を得ます。あくまで「着る側」からの視点で、リアルクローズ(※)を作成していくというコンセプトです。

※「実際に着るような服」のこと。パリコレなどで発表される、高級仕立て服(オートクチュール)や高級既製服(プレタポルテ)に対して、実際に消費者が購入して着用する服。

専門のデザイナーの人件費をコストカットできることから、低価格のラインナップが可能だということです。

マーケットから評価を受けていることからも、「商業的には成功」だといえるでしょう。(株)ポイントの戦略は、すでに流行し始めているスタイルを取り入れていくフォロワー戦略ですが、これができるのも先端のファッションがあるからです。

フォロワー戦略が最良の選択だとはいえませんが、かつてはデザイナーが花形として、専門外の人にはわからない世界観を持っていました。しかし、今日、その世界観は必ずしも商業的には必要なくなっているということです。

これはあくまで一企業の事例ですが、デザイナー一般、雑貨デザイナーにも同じようにいえるかもしれません。

雑貨デザイナーは人気のある職業です。さらに、かわいい雑貨に囲まれたいという雑貨好きなアマチュアはたくさんいます。専門家とアマチュアの格差は小さいものです。やる気さえあれば、雑貨デザイナーとして雑貨を生み出すことも可能です。

雑貨デザイナーに求められるコアな能力とは何でしょうか?
デザイナーに求められるコアな能力とはなんでしょうか?

この問いは、デザイナーという専門職に問われている大きな課題です。

一つの解答は、「デザインで食っているんだ!」という強い執着と、時代や地域、文化を超えて、通用する普遍性、いいかえると、貪欲な吸収力であるといえるのではないでしょうか。

デザインに唯一の正解はありません。デザインは時代や地域、文化によってまったく異なる解答があるのです。

その多様な考え方を受け入れて、客観的に展開できる能力が「専門家としてのデザイナー」なのではないでしょうか。